2024年1月8日月曜日

2023年の33冊

01.雨宮まみ『40歳が来る!』大和書房

02.有賀郁敏編『スポーツの近現代 その診断と批判』ナカニシヤ出版

03.池田賢市『学校で育むアナキズム』新泉社

04.いとうせいこう『「国境なき医師団」をもっと見に行く ガザ、西岸地区、アンマン、南スーダン、日本』集英社文庫

05.伊藤雄馬『ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと』集英社インターナショナル

06.稲岡大志、森功次、長門裕介、朱喜哲『世界最先端の研究が教える すごい哲学』総合法令出版 ※

07.鵜塚健、後藤由耶『ヘイトクライムとは何か 連鎖する民族差別犯罪』角川新書

08.加藤寛幸『生命の旅、シエラレオネ』ホーム社

09.斎藤環『「自傷的自己愛」の精神分析』角川新書 ※ 

10.五月あかり、周司あきら『埋没した世界 トランスジェンダーふたりの往復書簡』明石書店

11.佐藤友則、島田潤一郎『本屋で待つ』夏葉社 ※

12.島田美子『おまえが決めるな! 東大で留学生が学ぶ《反=道徳》フェミニズム講義』白順社

13.杉田俊介『男が男を解放するために 非モテの品格・大幅増補改訂』Pヴァイン

14.スージー鈴木『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』新潮新書

15.鈴木大介『ネット右翼になった父』講談社現代新書

16.武田砂鉄『父ではありませんが 第三者として考える』集英社

17.竹信三恵子『女性不況サバイバル』岩波新書

18.橘玲『世界はなぜ地獄になるのか』小学館新書

19.谷川義浩、朱喜哲、杉谷和哉『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる 答えを急がず立ち止まる力』さくら舎

20.田野大輔、小野寺拓也編『〈悪の凡庸さ〉を問い直す』大月書店

21.勅使川原真衣『「能力」の生きづらさをほぐす』 どく社 ※

22.友野健太郎『自称詞〈僕〉の歴史』河出新書

23.平野卿子『女ことばって何なのかしら? 「性別の美学」の日本語』河出新書

24.藤田早苗『武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別』集英社新書 ※

25.藤原章生『差別の教室』集英社新書

26.プチ鹿島『教養としてのアントニオ猪木』双葉社

27.古田徹也『謝罪論 謝るとは何をすることなのか』柏書房

28.古谷経衡『シニア右翼 日本の中高年はなぜ右傾化するのか』中公新書ラクレ

29.ペク・ソルフィ、ホン・スミン『魔法少女はなぜ世界を救えなかったのか?』晶文社

30.三牧聖子『Z世代のアメリカ』NHK出版新書

31.柳澤健『1985年のクラッシュ・ギャルズ』光文社未来ライブラリー

32.山口香『スポーツの価値』集英社新書

33.ヤン ヨンヒ『カメラを止めて書きます』クオン

※2022年12月刊は「ほぼ2023年刊」として含めました

2023年1月9日月曜日

2022年の32冊

01.東浩紀『忘却にあらがう 平成から令和へ』朝日新聞出版

02.和泉真澄ほか『私たちが声を上げるとき アメリカを変えた10の問い』集英社新書

03.稲田豊史『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ コンテンツ消費の現在地』光文社新書

04.A・R・ホックシールド『タイムバンド 不機嫌な家庭、居心地がよい職場』ちくま学芸文庫、2022

05.江原由美子『持続するフェミニズムのために グローバリゼーションと「第二の近代」を生き抜く理論へ』有斐閣

06.尾崎ムギ子『女の答えはリングにある 女子プロレスラー10人に話を聞きに行って考えた「強さ」のこと』イースト・プレス

07.重田園江『ホモ・エコノミクス 「利己的人間」の思想史』ちくま新書

08.川瀬和也『ヘーゲル哲学に学ぶ 考え抜く力』光文社新書

09.栗田隆子『呻きから始まる 祈りと行動に関する24の手紙』新教出版社

10.小松原織香『当事者は嘘をつく』筑摩書房

11.小峰ひずみ『平成転向論 SEALDs 鷲田清一 谷川雁』講談社

12.古谷田奈月『フィールダー』集英社

13.澁谷智美、清田隆之編『どうして男はそうなんだろうか会議 いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと』筑摩書房

14.清水晶子『フェミニズムってなんですか?』文春新書

15.清水晶子、ハン・トンヒョン、飯野由里子『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』有斐閣

16.ジュディ・コックス『女たちのレボリューション ロシア革命1905~1917』作品社

17.ショーン・フェイ『トランスジェンダー問題 議論は正義のために』明石書店

18.杉田俊介『男がつらい! 資本主義社会の「弱者男性」論』ワニブックスPLUS新書

19.スージー鈴木『桑田佳祐論』新潮新書

20.高井ゆと里『極限の思想 ハイデガー 世界内存在を生きる』講談社選書メチエ

21.高桑和巳『哲学で抵抗する』集英社新書

22.谷川嘉浩『鶴見俊輔の言葉と倫理 想像力、大衆文化、プラグマティズム』人文書院

23.戸谷洋志『スマートな悪 技術と暴力について』講談社

24.中村うさぎ、マツコ・デラックス『幸福幻想 うさぎとマツコの人生相談』毎日新聞出版

25.ヒオカ『死にそうだけど生きてます』CCCメディアハウス

26.藤高和輝『〈トラブル〉としてのフェミニズム 「とり乱させない抑圧」に抗して』青土社

27.三木那由他『グライス 理性の哲学 コミュニケーションから形而上学まで』勁草書房

28.三木那由他『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション』光文社新書

29.三木那由他『言葉の展望台』講談社

30.瑞作富郎『アントニオ猪木 闘魂60余年の軌跡』新潮新書

31.吉川浩満『哲学の門前』紀伊國屋書店

32.レジー『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』集英社新書

2022年1月8日土曜日

2021年の35冊

01.アイリス・ゴットリープ『イラストで学ぶジェンダーのはなし-みんなと自分を理解するためのガイドブック』フィルムアート社

02.新井宏『“黄金の虎”と“爆弾小僧”と“暗闇の虎”』辰巳出版

03.池田喬『ハイデガー『存在と時間』を解き明かす』NHKブックス

04.井上輝子『日本のフェミニズム-150年の人と思想』有斐閣

05.岩渕功一編著『多様性との対話-ダイバーシティ推進が見えなくするもの』青弓社

06.おおたとしまさ『ルポ森のようちえん-SDGs時代の子育てスタイル』集英社新書

07.堅田香織里『生きるためのフェミニズム-パンとバラと反資本主義』タバブックス

08.河合香織『分水嶺-ドキュメント コロナ対策専門家会議』岩波書店

09.川瀬和也『全体論と一元論-ヘーゲル哲学体系の核心』晃洋書房

10.北村紗衣『批評の教室-チョウのように読み、ハチのように書く』ちくま新書

11.キム・ジナ『私は自分のパイを求めるだけであって人類を救いにきたわけじゃない』祥伝社

12.キム・ジヘ『差別はたいてい悪意のない人がする-見えない排除に気づくための10章』大月書店

13.周司あきら『トランス男性によるトランスジェンダー男性学』大月書店、2021

14.ジョルジャ・リープ『ファザー・フッド-アメリカで最も凶悪な街で「父」になること』晶文社

15.辛酸なめ子『新・人間関係のルール』光文社新書

16.杉田俊介『マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か-#MeTooに加われない男たち』集英社新書

17.立川談志『酔人・田辺茂一伝』中公文庫

18.チェ・スンボム『私は男でフェミニストです』世界思想社

19.寺本浩司『音楽プロデューサーとは何か-浅川マキ、桑名正博、りりィ、南正人に弔鐘は鳴る』毎日新聞出版

20.鳥羽和久『おやときどきこども』ナナロク社

21.外山恒一『政治活動入門』百万年書房

22.永井玲衣『水中の哲学者たち』晶文社、2021

23.中村敏子『女性差別はどう作られてきたか』集英社新書

24.名執雅子『矯正という仕事-女性初の法務省矯正局長37年間の軌跡』小学館集英社プロダクション

25.橋本治『「原っぱ」という社会がほしい』河出新書

26.姫野桂『生きづらさにまみれて』晶文社

27.広瀬巌『パンデミックの倫理学-緊急時対応の倫理原則と新型コロナウイルス感染症』勁草書房

28.丸山里美『女性ホームレスとして生きる[増補新装版]-貧困と排除の社会学』世界思想社

29.溝井裕一『動物園・その歴史と冒険』中公新書ラクレ

30.美達大和『罪を償うということ-自ら獄死を選んだ無期懲役囚の覚悟』小学館新書

31.藪耕太郎『柔術狂時代-20世紀初頭アメリカにおける柔術ブームとその周辺』朝日選書

32.山本昭宏『戦後民主主義-現代日本を創った思想と文化』中公新書

33.山本圭『現代民主主義-指導者論から熟議、ポピュリズムまで』中公新書

34.リン・スタルスベルグ『私はいま自由なの?-男女平等世界一の国ノルウェーが直面した現実』柏書房

35.綿野恵太『みんな政治でバカになる』晶文社

※太字は特に印象に残ったベスト5です。
※ただし、間違いなく面白いと思われるが積読あるいは読みかけで挙げられなかった本も沢山あり、かつ配慮を含ませたくないので自分が関わっている著者さん関連はあえて外したことはお断りしておきます。

2021年1月6日水曜日

2020年の50冊

1.秋元康隆『意志の倫理学-カントに学ぶ善への勇気』月曜社
2.朝倉未来『強者の流儀』KADOKAWA 
3.東浩紀『ゲンロン戦記』中公新書ラクレ 
4.東浩紀『哲学の誤配』ゲンロン 
5.東浩紀編『ゲンロン11』ゲンロン 
6.石井妙子『女帝 小池百合子』文藝春秋 
7.伊藤邦武・山内史朗・中島隆博・納富信留・編『世界史の哲学6』ちくま新書 
8.伊藤邦武・山内史朗・中島隆博・納富信留・編『世界史の哲学8』ちくま新書 
9.宇野博幸『結果を出すための攻める検問・職務質問』春吉書房 
10.猫沢めろん『パパいや、めろん』講談社
11.太田啓子『これからの男たちへ-「男らしさ」から自由になるためのレッスン』大月書店
12.岡田育『ハジの多い人生』文春文庫 
13.小川善照『香港デモ戦記』集英社新書 
14.奥野克巳『モノも石も死者も生きている世界の民から人類学者が教わったこと』亜紀書房
15.小倉千加子『草むらにハイヒール-内から外への欲求』いそっぷ社 
16.オトフリート・ヘッフェ『自由の哲学-カントの実践理性批判』法政大学出版局 
17.加藤典洋『オレの東大物語 1966-1972』集英社 
18.金原ひとみ『パリの砂漠、東京の蜃気楼』ホーム社 
19.川端浩平『排外主義と在日コリアン-互いに「バカ」と呼び合う前に』晃洋書房 
20.岸政彦『NHK 100分de名著 ブルデュー ディスタンクシオン』NHK出版 
21.清田隆之『さよなら、俺たち』スタンド・ブックス 
22.小梅けいと/スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』KADOKAWA 
23.斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社新書 
24.佐藤直樹『なぜ日本人は世間と寝たがるのか-空気を読む家族(新装版)』春秋社 
25.品川哲彦『倫理学入門-アリストテレスから生殖技術、AIまで』中公新書 
26.白岩玄『たてがみを捨てたライオンたち』集英社文庫 
27.諏訪正樹、伝康晴ほか『「間合い」とは何か』春秋社 
28.全卓樹『銀河の片隅で 科学夜話』朝日出版社 
29.千坂恭二『哲学問答2020-ウイルス塹壕戦』現代書館 
30.ティム・インゴルド『人類学とは何か』亜紀書房 
31.テオドール・アドルノ『新たな極右主義の諸側面』堀之内出版 
32.ドミニク・レステル『肉食の哲学』左右社 
33.戸谷洋志、百木漠『漂泊のアーレント 戦場のヨナス-ふたりの二〇世紀 ふたつの旅路』慶應義塾大学出版会 
34.中野巽耀『私説UWF 中野巽耀自伝』辰巳出版 
35.中村淳彦、藤井達夫『日本が壊れる前に-「貧困」の現場から見えるネオリベの構造』亜紀書房 
36.西牟田靖『中国の「爆速」成長を歩く』イースト・プレス 
37.能勢桂介、小倉敏彦『未婚中年ひとりぼっち社会』イースト新書 
38.パイインターナショナル『ブックデザイン365』パイインターナショナル 
39.初沢亜利『東京、コロナ禍』柏書房 
40.原田曜平『Z世代-若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』光文社新書 
41.ぼくらの非モテ研究会『モテないけど生きてます-苦悩する男たちの当事者研究』青弓社
42.マルクス・ガブリエル、中島隆博『全体主義の克服』集英社新書 
43.三上智恵『証言 沖縄スパイ戦史』集英社新書 
44.ミシェル・クオ『パトリックと本を読む-絶望から立ち上がるための読書会』白水社 
45.メアリー・ビアード『舌を抜かれる女たち』晶文社 
46.森岡正博『生まれてこないほうが良かったの.か?-生命の哲学へ!』筑摩選書 
47.山本貴光、吉川浩満『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。-古代ローマの大賢人の教え』筑摩書房 
48.横田祐美子『脱ぎ去りの思考-バタイユにおける思考のエロティシズム』人文書院 
49.吉田豪『超・人間コク宝』コアマガジン 
50.吉田喜重『贖罪-ナチス副総統ルドルフ・ヘスの戦争』 

※積ん読本を除き、ある程度読んだ中で印象に残った本です。 
※著者の主張に共感しているとは限らず。違うなと思えても、それはそれで参考になったものはあげました。 
※太字はとくに実存を揺さぶられた本です。
※ちなみに、いつも最近出た本ばかり読んでいるわけではないです…(古典関連企画を通すため夏と秋は資料本ばかりかかりきりに)。

2020年5月9日土曜日

2019年の30冊

ついぞ去年は一度も投稿しませんでしたね。
いつも暮れになるとその年に出た本のベストをFacebookに挙げたりしていたのですが、じつはお付き合いのある/あった著者の本を入れなきゃとか、割とそうした配慮で迷うのです。
だから5冊限定に絞ったりなどするのですが、本当は面白かった本いっぱいあるんです。
なので、Facebookではボツにしましたが、2019年に出た本の中で面白かった30冊、ここに挙げておきます。
必ずしも内容に全面的に共感したり支持したりというものばかりでないですが、部分的にはそれがあって読んでよかったと思えたものです。
黒丸はその中でも特に個人的に強いインパクトがあった本です。


阿部泰尚『保護者のためのいじめ解決の教科書』
荒木優太『無責任の新体系』
荒木優太編著『在野研究ビギナーズ』
●磯野真穂『ダイエット幻想』
稲葉振一郎『AI時代の労働の哲学』
打越正行『ヤンキーと地元』
大澤真幸『社会学史』
梶谷懐・高口康太『幸福な監視国家・中国』
香山リカ『ヘイト・悪趣味・サブカルチャー 根本敬論』
木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義』
●木村元彦『13坪の本屋の奇跡』
清田隆之『よかれと思ってやったのに』
國分功一郎『原子力時代における哲学』
小林エリコ『わたしはなにも悪くない』
小谷野敦『哲学嫌い』
白石あづさ『佐々井秀嶺、インドに笑う』
先崎彰容『バッシング論』
高野てるみ『ココ・シャネルの言葉』
常見陽平『僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う』
ナイツ『言い訳』
那嵯涼介『最強の系譜』
●濱野ちひろ『聖なるズー』
●福留崇広『さよならムーンサルトプレス』
古田徹也『不道徳的倫理学講義』
ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
●毎日新聞取材班『強制不妊』
松山正訓『いのちは輝く』
マルクス・ガブリエル他『未来への大分岐』
マレーナ&ベアタ・エルンマン『グレタ たったひとりのストライキ』
綿野恵太『「差別はいけない」とみんないうけれど。』

2018年1月22日月曜日

西部邁のこと

父親の影響もあり、また多少は寮とか周囲の環境もあり、特に政治思想に強い関心も知識もなかったけれども、それまでの自分は薄いサヨクというか、薄っぺらいサヨクではあった。

それが変わったのは、大学2年生の冬。90年8月にイラクがクウェートに侵攻し、91年1月に湾岸戦争ぼっ発。
それまで朝生は好きでよく見ていたが、事態の進行に伴い、薄っぺらいサヨクの考えも揺らいでいった。
「アメリカのイラク攻撃はいけないと言うが、イラクに侵略されたクウェートの不公正な状態はそのままでいいっていうの?」

大学2年生の冬から、突然、貪るように本を読み始めた。特に、思想とかに強い関心を抱いたのは、間違いなく西部邁の影響だった。
大学3年生の春から、授業が急に興味が出てきて、いつも前のほうに座って授業を聞いた。大学4年生になったら、だいたい単位は取れているので普通の学生はあまり学校に行かなくなるものだが、わたしの場合は必要以上に授業を履修した。そして、卒業後まで勝手に大学に行って(当時いうところの「ニセ学生」)、勉強した。

大学のサークルの先輩に、何になりたいかという話で「(朝生に出ているような)評論家になりたい」とか言ったのが(大学生なので許してください…)、ふだん温厚な先輩のどこか癇に障ったらしく、何か議論をふっかけられたのも微妙な思い出。
いや、時に西部っぽさ、栗本慎一郎っぽい口真似をしたことは、一度や二度ではなかったか(大学生なので許してください…)。

大学卒業後は1年あまり、ピースボートに出入りしたり、ニセ学生で幾つかの大学に潜り込んだりなどプラプラして、そのなかでサンボで知り合いでもあった鈴木邦男さんのゼミナールの手伝いなんかもやった。
たしか高田馬場のシチズンプラザあたりで、鈴木さんが呼びたい人を呼んでトークをやるもので、あるとき西部さんを呼ぶというので俄然テンションが上がった。改めて、西部さんの本を読み直し、何か突っ込みは出来ないかと研究したりした。

当時ピースボートの事務所で、思想についても通じている活動家タイプの古株に、西部の本を全部読んで研究したということを言ったら、「(批判するのに)そこまで全部読む必要なんかあるの?」という反応が返ってきたことを覚えている。

細かいことは忘れたが、わたしが用意した質問というのは、伝統が大事だというのはそれが歴史の風雪を耐えてきた知恵であるからで、それを人間の思いつきのような頼りない理性なんぞで簡単に否定できるものか、というのはわかるが、一方で西部先生は、伝統の中にも悪いものはあり必ずしも全部守らなきゃいけないわけではないということも同時に言っておられているので、その伝統の中の良いもの/悪いものを腑分けするのはやっぱり人間の理性頼りではないか? みたいな内容だった。

西部さんは正面から答えず、そうしたことも今度創刊する『発言者』を読んでくれ、というような感じだった。わたしも、どこか悪いこと聞いちゃったかなという気持ちになった。Wikiを見ると、『発言者』創刊が94年4月、準備号が93年10月だから、それぐらいの時期の話。

その二次会が高田馬場の喫茶店であって、唯一覚えている光景は鈴木さんがパリ人肉事件の佐川クンを目の前に連れてきて紹介しようとしていたところ、西部さんが「いや、挨拶したくない」「知り合いたくない」と拒否したことだった。目の前にその人が居ながら、断固たる態度だった。佐川さんは何も言わずに俯いていた。

94年10月からわたしは格闘技雑誌の仕事に入って、そちらの世界から少し縁遠くなった。
また、90年代半ば過ぎると、戦後民主主義とか進歩主義とか護憲派に対する批判という意味では鋭い切り口を保っていたものの、援助交際やオウムなど複雑な事象に対しては西部さんはじめとする「保守」の言説にあまり魅力を感じなくなっていった、と今にして思う。

それで、社会学者・宮台真司の台頭である。朝生でも存在感を強めていき、わたしも応援していた。
97年7月4日放送「田原総一郎の意義あり」で、西部と宮台が対決、途中で西部が退席してしまった場面はリアルタイムで見ていたし、しばらくビデオテープに残していた。当時はすでに宮台のほうを応援していたと思う。

そして、西部さんの本も手に取ることはなくなっていった。

それから十数年が経ち。
MX「5時に夢中!」を一時期よく観ていた時、その前にやっていた「西部邁ゼミナール」をチラ見したことを除けば、ふたたび、西部さんの言説に接近したのは2016年春。
安保法制の議論が盛り上がっていた頃の2016年5月5日、BSフジ「プライムニュース」で元・法制局長官が出演し、「9条と自衛と侵略の境界線」というテーマで西部さんの話を2時間近くしっかり拝聴した。
仕事の企画に関わるテーマだったし、もちろん個人的な関心があったから。
議論は噛み合わず、じつは自分でもびっくりするほど西部さんにまったく共感しなかった。いま議会で議論されている論点とは別個のところで、得意の語源に遡っての話法、そもそも人間の本性とは……的な話にはついていけなかった。

同じころ、『教養としての戦後平和論』という本を編集中に西部さんのことも言及されているので、参考までに古本で『私の憲法論』を買い直してみたり。
一年前に、読書会でオルテガをやるので、参考までに文庫になった西部の『大衆への反逆』を買い直してみたり。
どこか期待しながら、でも、いずれも今の自分に響いてくるものはなかった。

去年夏に出た『ファシスタたらんとした者』に、「遺書」だとか最後の本のような惹句が出たので、軽く立ち読みしたら、もう思うように手で書けなくなったのだという。
ああ、自分は編集者としては、ついぞ交わること無いままだったな、という感慨を覚えた。仕方ないことだ。

かつて自分が熱心な読者で、そこから離れてしばらくしたら、急な訃報にあってうろたえるという経験は、池田晶子さんの時にもあった(池田先生の場合は、本は作れなかったが、著者と編集者としての交わりは多少あった)。
多少の負い目。
いや、最初はそういう感じも確かにあったのだが、それ以上に「自殺」という選択についての思い。
言論は虚しい、自分の人生は無駄だった。……なのか、ほんとうに?

どんどん雪が降っている。
「俺に是非を説くな 激しき雪が好き」
野村秋介も自殺だった。

思想に殉じるような人たちは、もうこれからほとんど出てこないだろう。■


2017年11月15日水曜日

雨宮まみさん命日

雨宮まみさんの命日。
1年前の深夜に柳澤さんから訃報のメールをもらい、それを翌朝の通勤電車で開いた時の衝撃といったら。
どういう理由だったか全く記憶にないのだが、なぜか鞄の中には雨宮さんに寄稿して頂き、その中の言葉を帯のいちばん大きなキャッチにした『井田真木子と女子プロレスの時代』が入っていた。
その1年前に出したあんな分厚くて重い本をなぜその日に持っていたのだろう。
通勤電車の中で雨宮さんが亡くなったということをある著者さんにメールで知らせたら、ちょうど雑誌連載の締切日で雨宮さんに触れようとしていたところでとりやめた、なんてこともあった。
まだ死因も分からない時に、不謹慎に映るかもということで。
当日午後、お別れ会という名の葬儀に伺った時の心象風景。
そうだ、その1か月前には著者さんであるなべおさみさんの愛妻、笹るみ子さんをご自宅で見送っていたのだ。
みんな死んでいくなあ、とこういう時は登場人物がみんな死ぬイデオンが昔からよぎる。
じつは本日搬入の本の前書で、北原みのりさんが雨宮さんに触れているのだが、この本の搬入日と雨宮さんの命日と重なったのもただの偶然。
そういえばと、『井田真木子と女子プロレスの時代』刊行記念でやった雨宮さんと柳澤さんのトークイベントの音声を今日は引き出して聞いている。
「女性のライター死ぬんですよね。若くして亡くなる方が本当に多くて」
なんて雨宮さん、普通に言っている。
いや、井田さんのように貴方も。ぬけぬけとさあ。絶句。